交通事故の後遺障害とは?認定基準と認定のポイント
身近に交通事故の被害者になって苦しい思いや不安な思いをしている人もいるかもしれません。交通事故で負ったケガが治療で完治すれば良いですが、残念ながら身心に「後遺症」が出てしまう人もいます。後遺障害を負ったままの生活を補償してくれるお金である「示談金」は、「後遺障害等級」を基準として金額が決まる仕組みです。今回は、後遺障害等級の認定基準や、適切な等級を認定されるためのポイントについて詳しく説明します。
交通事故の後遺障害とは
交通事故で心身にケガをしたときは、治療やその後のリハビリテーションを行います。ケガの場所や程度によっては長い期間を必要とすることもあり、その間は「完治してもとどおりの生活ができるのか」と不安な思いをすることでしょう。急激に回復する期間を過ぎると、治療やリハビリテーションを実施しても心身の状態が変わらない「症状固定」の時期がやってきます。治療開始から3~6カ月経過したころで、事故の加害者側の保険会社から「治療費をそろそろ打切りたい」と持ちかけられます。
症状固定の時期に痛みやしびれ、関節の可動域制限、記憶障害などの精神症状が残っている場合は、その症状が「後遺障害」であると認めてもらうことが必要です。まだ、回復する見込みがあるなら治療を続け、症状固定であれば後遺障害があるままで生活していくことを考えます。症状固定の時期は、担当の医師と相談して慎重に決めましょう。保険会社の言いなりになる必要はありません。
後遺障害に対してお金が支払われるには等級認定が必要
等級認定とは
症状固定だと判断されたときに残っている自分の心身の症状がどの程度なのか、障害の等級表に当てはめて認定してもらうことです。等級の数字が小さいほど、重度の後遺障害だということを表しています。そして、認定された等級をもとに、慰謝料や逸失利益などのお金が加害者側の保険会社から支払われます。等級認定されず「非該当」となると、これらのお金は支払われないので、認定されることは極めて重要です。
等級認定されるともらえるお金
「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」という法律で、等級に応じた金額を被害者に対して支払うことが定められています。内訳は障害が残ってしまったことで生じる精神的損害に対する賠償金「後遺障害慰謝料」と、障害があるために得られなくなった収入に対する賠償金「逸失利益」です。「後遺障害慰謝料」は介護が必要な場合や被害者が扶養している家族がいる場合は金額が加算され、1級認定では数千万円以上になることもあります。
「逸失利益」は事故に遭う前の収入を基準として、障害等級表にある「労働能力喪失率」や労働可能年数の「中間利息控除係数(ライプニッツ係数)」などを利用して計算します。「年齢がいくつか」「収入がある人なのか」などの条件によっても金額が変わるのが一般的です。例えば、症状固定時に10等級、年収500万円、45歳の人が67歳まで働けたとした場合、年収500万円×10等級の労働能力喪失率27%×(67-45=22年間)の中間利息控除係数13.163=約1,780万円です。
障害等級とは
交通事故の障害等級は「労働者災害補償保険の障害等級表」を参考として定められています。介護を要する後遺障害として1級と2級、その他の後遺障害として1~14級があるのです。体のどの部分にどの程度の障害が残ってしまったか細かく区分されている表があります。1カ所だけでなく、手と足に障害が残ってしまったような場合、重い等級のほうを基準としてさらに重く等級に認定するのが「併合」です。また、障害等級表に明示されている障害でなくても同じ程度の障害だと認定される「相当」という制度もあります。
例えば、交通事故では「むちうち症になって首が痛む」という訴えが多くあります。この首の痛みが「局部に神経症状を残すもの」と認められると14級の認定です。「局部に頑固な神経症状を残すもの」として認められると12級になります。12級のほうがより重い障害とされ、もらえる保険金の金額も高くなるのです。
障害等級認定の申請方法
障害の等級は「損害保険料率算出機構」という専門機関が「損害保険料率算出団体に関する法律」の規定に基づいて認定しています。担当した医師の診断書などの内容を、顧問医などの専門家が審査して等級認定を行うのです。通常、申請してから1~2カ月ほどで結果がわかります。顔に傷を負った場合などは、被害者本人が審査の場に呼ばれることがありますが、書類のみの審査が原則です。交通事故で負った障害があることで、どんなにつらい思いをしているか、被害者本人が直接訴える機会はないので、審査書類の内容が極めて重要といえます。
申請方法は、「事前認定」と「被害者請求」の2種類です。「事前認定」は加害者側の保険会社が申請手続きをすべて行ってくれるという方法で、被害者は結果を待つだけになります。「被害者請求」は被害者が自分で必要な書類をそろえて申請する方法です。「事前認定」のほうが手間がかからなくて楽だという考えもありますが、被害者は申請前に書類のチェックもできず、加害者側に有利な結果になってしまう可能性があります。「被害者請求」は手間がかかりますが、書類の内容が自分の症状にあっているか事前にチェックできるので、納得のいく結果を得られる可能性が高くなるでしょう。申請方法は被害者側が選べます。
等級認定に必要な書類は
申請に必須の書類は主に下記の7つです。
- 支払請求書
- 請求者本人の印鑑証明書
- 交通事故証明書
- 事故発生状況報告書
- 診療報酬明細書
- 事故発生直後の診断書
- 後遺障害診断書
事前認定ではこれらの書類を確認できませんが、被害者請求を選べば、申請前に内容の確認ができたり書類を付け加えたりすることができます。事故の状況と後遺障害の状況に関連性があることがまず重要です。残っている症状を裏付けるMRIなどの画像資料や検査結果があることなども等級認定のポイントになります。
後遺障害で苦しい思いをしている状況で、医学用語などがたくさん使われている書類を、時系列にしたがってきちんとそろえるのは大変なことです。「被害者請求をしたい」と思っても、被害者本人や家族がその作業を大きな負担に感じることもあるでしょう。被害者請求は、被害者から依頼を受けた弁護士や司法書士などの法律の専門家が代理で行うことも可能です。被害者請求が難しい場合は、早めに専門家への依頼したほうが良い結果が得られる可能性が高くなります。
異議申し立てもできる
「等級に非該当である」などの障害等級の認定結果に納得できない場合は、「異議申し立て」という制度を利用することもできます。認定結果がくつがえるような書類をそろえて、改めて申請して審査してもらう方法です。何度でも可能ですが、初回より上部機関での審査であり、厳しいものとなります。審査期間も初回申請より長くなるのが通例です。異議申し立てをする場合には、書類の準備をより綿密にする必要があるので、経験豊富な専門家に依頼したほうが安心です。
多くの手間と時間がかかる「異議申し立て」をするより、初回で必要十分な書類をそろえて申請したほうが納得のいく障害等級が認定されやすいといえます。事故後の生活に対する不安が大きい人ほど、事故に遭った直後の早めの時期から弁護士や司法書士などの専門家に相談するようにしましょう。交通事故の示談交渉に関する相談実績の多い事務所を選ぶと安心です。等級認定後の加害者との示談交渉もスムーズに進み、安定した生活に移行するのも早くなります。
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